【sexドール】 より sample
ここ最近では久方ぶりになる商談は、思っていた以上に、ディーノの気力を殺いでいた。 物騒な銃撃戦やら抗争の類とは違うが、それに近い疲労感という意味では、机上の取引も銃撃交えた抗争も変わらぬものだと思っている。 精魂尽き果てる思いで邸宅へと帰り着くと、出迎えたのは、諸雑務で別行動をとる形になっていた、腹心ロマーリオだ。 「お疲れだったな。ボス。例のアレが届いてるぞ」 例のアレ、などという含みを持った言い方に、何のことかと、働かぬ頭を必死でフル稼働させ考えるが、すぐにああ、と思い至る。 「誰からだ?」 先日、めでたくもまた一つ年を取り、迎えた誕生日を盛大なパーティーで過ごしたディーノである。 イタリアでは、誕生日を迎える当の本人が、日頃世話になっている友人や知人達を招待し、自ら指揮の元、パーティーを催す習慣がある。 生まれてこの方、なんの疑問も抱くことなく繰り返してきた行事だったが、弟弟子であるところのツナやその友人達に話した所、大層驚かれ、こちらが逆に驚いてしまった。 どうやら、イタリア独特の風習であるそうなのだ。 そんなものかと不思議には思ったが、別段だからといって控える必要もないので、今年も部下や周辺の人間を集め、大盤振る舞いで一夜を明かしたのはつい先日の話だ。 遠方やその他の理由で参加出来ない者は、事前に贈り物だけを贈ってくる。毎年二月ともなると、贈り物を一時保管するためだけに一室用意するほど、それは賑やかで、また華々しいのだ。 誕生日は過ぎたというのに、遅れて届く贈り物はいまだ後を絶たない。 つい先日も、日本にいる弟弟子が、その友人達と連名で贈り物を届けてくれた。 そろそろ落ち着いたかと思っていたのだが。 「誰からだろうな。心当たりはほぼ、届いていた筈だったと思うが……」 「まだ届いてない、とっておきがあったと思ったが? アンタが心待ちにしていた……」 「恭弥かっ!」 ディーノは、勢い勇んで、笑みを張り付かせて振り返る。 「と、言いたいところだが……残念だったな、リボーンさんからだ」 「あー…うん…わかってた。そうだろうと思ってた」 がっくりと項垂れるディーノに、ロマーリオは呆れて肩を竦める。 「相変わらずだな、ボス。いまだに期待してるのか。懲りねえことだ」 腹心の、どことない失笑の響きを感じ取り、ディーノは、だって、と噛み付くように捲し立てる。 「期待するだろうが、普通っ! もう何年が経つ? いい加減、オレの誕生日の一つや二つ、覚えていてくれたって……」 「覚えては、いるだろうよ。アンタが懲りもせずに、会うたび、猛烈にアピールしてるんだからな。ただ、贈り物をしようだとか、誕生日に合わせてアンタに会いに来ようとか、そういった発想を端から持ち合わせていないだけだ」 「……それが、一番問題なんじゃ……」 出会ってもう何年もが経つ。 師匠と弟子、日本の一学生とイタリアマフィアのボス、というだけでない、深くて強い絆で結ばれている間柄だと思っている。 事実、誰がどう贔屓目に見ても、恋人同士以外に、自分達を表現する言葉はないと思う。 雲雀恭弥。ディーノにとっては大切で大事な、パートナーである。 二人で積み重ねてきた日々がある。重ねてきた想いがある。だからこそ、今年こそは。今年こそは贈り物の一つや二つ。なかったとしても、僕自身が贈り物だよ、なんて言って、突然ふらりと現われたりなんかしちゃったりして。なんといっても恋人同士だからな。うん。恭弥のヤツ、憎い演出だぜ愛してる……っ! などというディーノの哀れな妄想は、結局今年も一個人の妄想の域を超えずに終わりそうだった。 「まあ、諦める事だな。こっちじゃ、誕生日ってのは、当人にとって年に一度の頑張り時だ。アンタもそれを改める気もねえだろうし、その必要もない。恭弥が、そこに迎合するなんざ、天と地がひっくり返った所で、有り得ない話だろうよ。アンタらは、未来永劫、相容れない運命なのさ」 「……なんか、えらいデカイ話にすりかわってるみてえだが、オレの気のせいか」 「気のせいだな。疑心暗鬼はよくないぜ、ボス」 「誰が、そうさせてるんだっつーの」 殆どじゃれあいに近い会話を交わしながら、勢いよく部屋へ続く扉を押し開いたディーノは、おお、こりゃすげえな、と呟いた。 狭くはない部屋だ。その中央に鎮座するのは、大きさにして一メートル半はあろうかという、正方形の重厚な箱だった。 「ボンゴレの人間が直々に、数人がかりで運んできた。えらい重いものらしく、この部屋に運び入れるの一つにも、一苦労だったぜ」 たまたま居合わせでもしたのだろう。 ロマーリオが、身振り手振りで状況を伝えてくる。 ディーノは、そりゃご苦労だったな、と、肩を竦めて笑った。 サイズにして一メートル強の正方形か。 軽く触れてみるが、やけに頑丈な素材で作られているのか、外からは中を伺い見る事は出来ない。 当然、持ち上げてみようともしたが、僅かほどにも動く事はなく、それで、さっさと荷を解く事にする。 口ではなんだかんだと言いながらも、いつの世も幾つになっても、誕生日を迎えることと、それによって贈られる好意は、単純に嬉しかった。 「そういや、先日ボンゴレの主催パーティーでお見かけした時のリボーンさんは、やけに自信がありそうな様子だったな。今年の誕生日プレゼントを楽しみにしてろって」 背後で控えているロマーリオが、ふと、思い出したように口を開く。 目の前の包みと格闘しながら、ディーノは声だけを、背後に返して寄越す。 「自信、だあ? リボーンがふてぶてしいまでに自信に満ち溢れてるのは、いつものことだろ」 「アンタはとことん、リボーンさんがいない所で、のみ、強気だな」 「な……っ!」 すっかり言い当てられ、しどろもどろになりながらも、勢いよく包みを開けたディーノと、その背後に控えていたロマーリオが見たもの。 「……あーっと……ボス。そのーだな。……今更あんたらの嗜好にあれこれ、口を出す気はないが……こりゃあ、一体、何の新たなプレイだ?」 「ち、違げーって……っ!」 開け放した包みの中。 そこには、膝を抱え、蹲るようにして横になる雲雀の、あどけない寝姿があった。 |
サカナニナレナイサカナ ■ 畝ちうさ |